20代の頃、当時の上司から事あるたびにしつこく言われ続けてきた言葉がある。

 

 

「もっと捻らんかい!」

 

 

人事という仕事柄、社内外の方に対して送るメールの文面、人に依頼する際の書面や打ち合わせの際に使用するレジュメ、研修資料や採用面接で口にする言葉表現など・・細かいことまでいちいち言われ続けた。

 

仕事に限った話ではなく、部内の歓送迎会やレクレーションの企画、接待の店選びからその場での立ち振る舞いまで。

 

 

要は、内容の良し悪しよりも、十分に考え尽くしたかどうか。言動のひとつひとつを見れば、手に取るようにわかるというのが口癖だった。そして、それら形跡が感じられないとなると、徹底的にやっつけられた。

 

 

いま考えると、「頭を捻る」という意味がもうひとつ分からぬまま、なんとなく捻っているフリをしている時期もあったように思うが、そんなことしようものなら容赦なくやっつけられたので、否が応でも訓練され、時間の経過とともに身にすり込まれていったのだろう。

 

 

そして、それは今も仕事をする上で、自分の中心に据えている、大切にしていることのひとつだったりする。

 

 

特に、今年に入ってからは、なかなかチャレンジングなプロジェクトに取り組んでいることもあって、以前にも増して意識している自分がいる。

 

 

街中を歩いている時も、ご飯を食べている時も、トレイで用を足している時も、常にプロジェクトのことや関わるメンバーのことをあれこれと考えている。

 

 

そんな中、自分でも信じがたい現象がいくつか起きている。

 

 

例えば、大野家においては、ゴミ収集日に関係なく朝になると、必ずといって置いてある玄関口のゴミを自分がマンション1階にあるゴミ置場まで運んでから仕事に向かうという流れができているのだが、先日いつも通りゴミ袋を片手に家を飛び出し、何を思ったのか、そのまま駅へと向かってしまった。100mくらい歩いたところで、ゴミ袋を握りしめている自分に気づき、慌ててマンションまで折り返した。

 

 

これも朝の出来事。いつも通りゴミ袋を片手にマンションのエレベーターに乗り込んだ。そこまでは良かったのだが、ふと気づくと、行き先ボタンも押さぬまま、何をするわけでもなく、エレベーター内でひとり突っ立っていた。時間にすると、1-2分間くらいなのだろうか。「何してんねん、オレ!」と軽く自分自身にツッコミを入れてから1階ボタンを押した。

 

 

もうひとつ。これは昼食時の出来事。時間がなかったため、コンビニへと向かい、お茶とサラダとスンドゥブチゲを購入した。そこまではいいのだが、スンドゥブチゲのあたためをお願いしておきながらも、会計を済ませると、そそくさとオフィスへと戻ってしまった。

 

 

スンドゥブチゲの存在に気付いたのは、オフィスの席に着いてから。大慌てでコンビニへと取りに戻った。もちろん、スンドゥブチゲはちゃんと保管してくれていたが、さすがの店員も、あたためを依頼された直後に、立ち去った自分とどう向き合えばよいのか少し戸惑っている様子だった。

 

 

極めつけは、つい先日、赤信号に突入してしまった。おかしな奴みたいだが、信号機の色も確認せぬまま、横断歩道に吸いこまれ、クラクションの音ではじめて状況に気がついた。

 

 

まだまだあるような気がするが、頭が切り替わることなく、常にプロジェクトに頭が支配されている感覚だ。

 

 

そんな状況の中、新卒採用面接を行う機会があり、就職活動中の学生から「大野さんが仕事上で大切にしていることってなんですかー?」といった質問を受けた時に、とっさにこんな言葉が出てきた。

 

 

「せやね、流さないということかなー」

 

 

その一言を聞いた学生がポカンとした表情をしていたので、慌ててこんな風に補足を加えた。

 

 

よく聞く話かもしれへんけど、どんな仕事にもすべて意味があると、この歳になって改めて思うねん!仕事の大小かかわらず、ひとつひとつの仕事の目的をじっくり考え、狙いを定めた上で、めいっぱい魂を込めてやるっていうことを、俺は大事にしてきたかなあー。

 

 

たぶん学生のみんなからすると、作業と呼ばれる類の仕事よりもスケールの大きな仕事、何かを企画立案するような創造的な仕事、物売りよりも提案営業に関わることで自分を成長させることができ、ビジネスマンとしての価値を高めることができるなんて思うだろうけど、そんな単純なもんではない。

 

 

仕事の価値って、その仕事に向かう人が決めるもんやから!同じ時間、同じ仕事をしてたって、そこから何を得るかは、人によって大きく異なる。結局のところ、自分自身の目線次第やと思うよ。そういった積み重ねで、ジワジワと差がついていくんやろうし、その差ってそう簡単に埋めれるもんちゃうと、俺は思ってるんやけどね。どう?

 

 

冷静に話をしているつもりではいたが、どことなく調子に乗ってきている自分、脱線しそうな気配に気づき、慌てて話にブレーキをかけた。

 

 

おそらく、上司の「もっと捻らんかい!」と現在置かれている状況とがシンクロして発した言葉だと思うが、学生の質問に対する回答として、果たして、十分に捻られたものなのかどうか・・・は非常に悩ましい。