オカンは、いまだに現役バリバリで仕事をしている。

 

来年5月でちょうど70歳を迎える。

 

まあまあ裕福な自営業の三人娘の末っ子として育ったオカンは、自分が幼い頃は主婦をしながら片手間で茶道と華道の教室を細々とやっていたが、自分の大学入学と同時に、外に出て働くようになった。

 

いまだ理由を聞いたこともないが、自分の学費を支払うためであることに違いない。

 

それから20年以上が過ぎているが、いまも同じ会社で働き続けている。

 

近所に働きに出ているわけでもない。

 

往復1時間もの時間をかけて、事務所のある奈良市まで通い続けており、イベント開催時は、会場のある京都市内まで往復3時間もの道のりを通っている。

 

京都市内に行くとなると、朝7時過ぎには家を出て、帰宅するのは22時過ぎらしい。

 

ここまでの情報は以前から何となく知り得ていたが、一方で、どんな会社であるとか、具体的にどんな仕事をしているかとか・・突っ込んだ話については、これまでは敢えて聞くことをしてこなかった。

 

ところが、先週日曜の朝、オカンの仕事の詳細がふと気になった。

 

奈良の実家の朝はとにかく早く、5時前には朝が始まる。

 

自分もわけもなく6時前くらいには起きてしまい、やることもなく、朝ご飯を作ってくれているオカンを見ているうちに気になりはじめた。

 

「オカン!実際のところ、月にどれくらい勤務してんの?」

 

「一体、いつまで働くつもりなん?」

 

・・・といった風に、知りたいことを段階的に質問した。

 

どんどん話は進んでいき、給与に関する質問を切り出したその時、オカン自身が給与の仕組みをいまひとつ理解していない様子が感じ取れた。

 

その瞬間、妙に心配な気持ちになり、質問を変えながら、何度も確認するも、的確な回答もなく・・・。

 

ますます不安になると同時に、怒りがこみ上げてきた。

何に対する怒りかと言えば、「しっかりしろよ、オカン!」というオカンに向けた怒りと、「年老いた人間をいいようにこき使っていやがって!」という会社に向けた怒り。

 

「オカン=世間知らずのお人好し」という先入観が自分の中で出来上がっているのかもしれない。

 

どんどんどんどん妄想が膨らみ、「絶対にオカンは騙されているんだ」と思い込むあまり、次から次へと一方的に質問を繰り返しては、理解してないオカンに対してえらそうにやいのやいの説教じみたことを口走っていた。

 

それでも心配がおさまらない自分は、「雇用契約書はあるのか?みせてみろよ。」と声を荒げたところで、ふと我に返った。

 

オカンをみると、困り果てた顔で、俺の方をじっとみていた。

 

そんなオカンをみて、「あーやってしもた・・・ちょっと言い過ぎたな・・・」とひどく反省していると、オカンがぼそっと話し始めた。

 

「ちゃんと自分のことやねんから確認せなあかんな。ありがとう。」

「でもな、何も心配してくれんでいい。わたしをみていて、辛そうに感じたことあるか?ないやろ!?」

「いまの仕事、好きやねん。懇意にしてくれてるお客さんもいるし、会社が要らんと言わん限りは頑張るって決めてるねん。」

 

素直に謝ることもできず、「ええ歳やねんから、ほどほどにせなあかんで。」とだけ小声で返すと、また追い討ちをかけるようにオカンが話し始めた。

 

「あんたが大学1年の頃やったかな。夜11時頃に電話くれた時に、いまボール磨きをしてるねんって、あんたが話してるのを聞いて、こんな時間まで頑張ってるあんたに負けんとこうと思ったのをよう覚えてるわ。」

 

先にも書いた通り、大学入学と同時に外で働き始めたオカン。

 

それまでは専業主婦だっただけに、何かと苦労もあったに違いない。

もしかしたら、自分のせいで苦しい思いをさせてたかも・・などと想像するだけで、胸がはち切れそうになる。

 

歳を重ねるたびに、ひとまわりずつ小さくなっていく両親。

 

それに反して、ズウタイと態度ばかりがデカくなる自分。

 

何年経っても、親は親、子は子であると同時に、両親というのは一生かけても越えることのできない大きな存在であることを改めて気づかされた。

image