ハドルは戦略会議の場

アメリカンフットボールの試合中継をみていて、プレー毎に選手たちが円陣を組んでコソコソと話し合っている光景を目にしたことがあるかと思います。アメリカンフットボールでは、この状態のことを「ハドル」と呼んでいます。何をしているのか。次に行うプレーやサインをメンバー全員で共有しているのです。オフェンスチームであれば、試合展開や相手チームを客観的に俯瞰しているコーチから司令塔であるクォーターバックに対して次のプレーが伝達され、それをクォーターバックがメンバー全員と共有するという流れです。それを受けたメンバーは瞬時に自分のアサイメントを頭の中で再確認し、やるべきことを明確にしてプレーに挑みます。試合においては、ハドルを組む→クォーターバックからプレーが告げられる→自分のアサイメントを再確認する→決められたポジションにセットする→プレーを行う→プレーが終わったらすぐさまハドルを組む・・・といったように離合集散を延々と繰り返しながら陣地を進めエンドゾーンまでボールを運びこみ得点することを目指します。

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頭と心と体を切り替える

ハドルは戦略会議の場であると同時に、次のプレーに向けて思考を切り替える場であり意思統一を図る場でもあります。試合は状況変化しながら流れていくわけで待ってくれません。前のプレーでミスをしようが、ナイスプレーであろうが、次のプレーにそれらを持ち越さないことがとても大切です。仮に、自分が犯したミスにより陣地か大きく後退してしまったとしても、悔やんだり嘆いたりしところで取り返すことはできません。「やってしまった!」と瞬間的に動揺したとしても、「次だ、次!」「反省は試合後だ」くらいの割り切りも必要です。目前の1プレーを完結させてはその場に置き去り、次のプレーに頭と心と体を向けるということです。しかし、人間というのは感情の生き物と言われるくらいですから、頭で理解できてもそれを実践するというのは決して簡単ではありません。

私自身もミスを引きずる選手の一人でしたから、自分なりに克服するための工夫をあれこれと考えては試みるといった経験があります。ひとつ紹介しますと、当時のクォーターバックは190㎝近くある巨人で、皆から「馬場」という愛称で親しまれていたわけですが、オフェンスチームの一人だった私はハドルが組まれるたびに、そのクォーターバックに目がけて、「馬場、来い!」と叫び続けていた時期がありました。盛り上げるための掛け声として叫んだことがキッカケだったかと思うのですが、いかなる時もハドルで「馬場、来い!」と叫び続けることで、自然と過ぎ去ったプレーがリセットし、次のプレーへの切り替えが素早くできるようになったのを覚えています。それにより、パフォーマンスそのものもずいぶんと安定したように思います。ただ、「馬場、来い!」と叫ばれている当人にとってはこの上なく面倒臭かっただろうと少し反省をしています。

あと、コーチになってからは、メリハリある離合集散をしようということを繰り返し言い続けてきました。「ハドル、ハリー!!はよ、ハドルつくれー!」が私の口癖でもあります。なかには、集団行動の規律を守れ!といったような意味合いとして受け止めていた選手もいたように思いますが、これも同様に、次のプレーに頭と心と体を切り替えさせるために発していたことのひとつです。コーチという客観的な立場でフィールドにいる選手たちの離合集散の様子を見ていると、どういう状態にあるのかが手に取るようにわかったりするものです。過ぎ去ったプレーについて選手同士であれこれと会話をしていたり、嘆いたり悔やんだりしていると、どことなく離合集散にメリハリがなくなり、形成されるハドルもばらつき感が表れてきます。それだけでなくミスや反則が再発し試合展開に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。皆さんも余計な事に気が取られるあまり電車を乗り過ごしたりモノにつまづいたり忘れ物をしたり・・といった経験が一度はあるかと思いますが、まさにその状態ですね。

「瞬発的」コミュニケーション

アメリカンフットボール経験者にはおもしろい特性があります。「ハドル!」の号令がかかると、その号令者のもとにダッシュで集まります。お笑いコンビのオードリーのふたりがアメリカンフットボール経験者であることはご存知かと思いますが、春日がよく発する「トゥース!」も「ハドル!」という号令が原型のはずです。もし、まわりにアメリカンフットボール経験者の知り合いがいる方は、「ハドル!」と叫んでみてください。ダッシュで集まるというのは言い過ぎかもしれませんが、必ずおもしろい反応をみせてくれるはずです。

試合だけに限らず、練習にもありとあらゆる場面でハドルが組まれます。練習の真っ最中なのにも関わらず、練習のクオリティが低い場合などにキャプテンやコーチから突発的に「ハドル!!」の号令がかかることもあります。個々の練習の目的や狙いを今ひとつ理解できていない様子が伺えると、対象メンバーを集められ、補足説明をしたり模範演技を見せることで認識を揃えるといった軌道修正を行います。また、集中力や注意力が散漫になりケアレスミスが多発していたり、メリハリのない、だらけた練習が進められているような時には、容赦なく喝を入れたり、チームや個人の目標を想起させる投げかけをすることで、選手個々が覚醒し練習が見違えるように蘇ることがあります。

練習途中であったとしても、チームやメンバーの異変を感じた時に、適切なアプローチを瞬時に判断し、すぐに手を打つことが大切です。異変を感じていても「誰かが言うだろう・・」と他人任せにしたり、「もう少し様子を見てみよう・・」「終わってから言えばいいや・・」と問題を先送りするのが人間です。いくら練習終了後に反省をぶつけ合ったところで、その日の練習を取り返すことはできませんから、その時々の自分自身の感覚を信じて行動できるかです。そのためには、日頃の練習やミーティングからそういった視点や感覚を共有する場が必要です。一部の人間だけでなく誰もが発信できる環境を整えること、勇気ある発信を正面から受け止め瞬時にリアクションできることも大切です。アメリカンフットボールはアジャスト力が求められるスポーツでもありますから、瞬発力あるコミュニケーションやリアクションができるチームはとても底力があります。

ビジネスシーンに置き換えても同じではないでしょうか。日常的に行われるミーティングや膨大な業務とどう向き合うか。ひとつひとつをその場で完結させ、次に向けて頭と心の切り替えを行う。先が見えにくく変化めまぐるしい時代においては、経営者任せの組織ではなく、最前線でユーザーと向き合い、市場を把握しているメンバーが瞬発力ある行動ができるかが重要な鍵となるのではないでしょうか。

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