“今日のテンポは、ゲームのテンポ”

スポーツチームであれば、どこのチームにも、独自の掛け声といったものがあるのではないでしょうか。ひと口に掛け声と言っても、ランニングや体操をする時の合図のような掛け声もあれば、試合や練習の時にチームの一体感を醸成するための掛け声もありますし、チームメンバー同士が励まし鼓舞するための掛け声もあります。

オービックシーガルズには、“Gテンポ(ジー・テンポ)”と呼ばれる、試合前日練習の冒頭で行う恒例の掛け声があります。私が発案者であることもあって、現役時代だけでなく、コーチになった後も主体となってやっていました。一体どんなものなのか?百聞は一見にしかず・・映像をお見せするのが手っ取り早いのですが、公の場でお見せできるものではありませんので、言葉で説明することにします。

選手をはじめ、トレーナー、コーチ、マネージャー・・といったチーム関係者全員が一堂に集まります。どんな風に集まるのかと言いますと、ギュッと集まります。どれくらいギュッと集まるかと言いますと、まるで、満員電車の車中のごとく、隣の人の体温が感じるくらいにギュッと集まるのです。その密集の中心部に私が立ち、掛け声を先導します。「行くぞー!」と冒頭で号令を言い放ち、「今日のテンポは、ゲームのテンポ!」と私が叫ぶ。すると、みんながそれに続き、「今日のテンポは、ゲームのテンポ!」と叫ぶ。また私が間髪入れずに、「今日のテンポは、ゲームのテンポ!」と叫ぶ。するとまた、みんながそれに続き、「今日のテンポは、ゲームのテンポ!」と叫ぶ・・・これを3回繰り返した後、最後は全員が手を高らかに挙げて、「ワン、ツー、スリー、Gテンポ!!」と叫んで締めくくる。

ちなみに、“Gテンポ”とは、ゲームのテンポがゲームテンポとなり、時間の経過とともに、“Gテンポ”と略されるようになりました。掛け声というよりかは、試合前日の恒例行事、儀式のようなもので、いまも変わらず、行われていると聞いています。発案者の私としては、嬉しさ極まりないです。

輪の中心に立つことで、主体性を引き出す

このGテンポには、いろんな思い出が詰まっています。Gテンポを最初に始めたのは、たしか2003年シーズン。当時、強力なディフェンスとは対照的に、オフェンスはというと、どことなく不安定、何となく沈滞ムードがあったように記憶しています。そういったムードを断ち切るべく、オフェンス一丸となって、試合の緊張感を持って練習しようと意味合いも込めて始めたのです。

当時のオフェンスリーダーにそそのかされたのか、自ら名乗り出たのか、そのあたり定かではありません。しかし、いま振り返ると、自分の殻を破るという意味において、とても貴重な経験だったと思っています。当時、試合出場していましたが、不用意なミスが多く、プレーそのものにも安定感のない、半人前のプレーヤーでした。たかが掛け声に毛が生えたようなものではありますが、キャプテンでもリーダーでもなかった私が、「チームメンバーの輪の中心に立つ」「人前に立って、その場を仕切る」ということを通して、何かが変わり始めたように思います。

実際問題、輪の中心に立つのと、外から輪の中心を眺めているのでは、見える世界がずいぶんと異なります。輪の中に入ると、改めて仲間の存在の大きさを肌で感じることができるのです。半人前のプレーヤーだった私ですが、自分の言動により責任を感じるようになり、練習や試合に挑む姿勢そのものが変わりました。ちょっとしたキッカケではありましたが、輪の中心に立つ、掛け声を主導するという役割を任されたことで、チームの一員としての自覚が芽生え、チームやメンバーに対しても主体的に関わるようになったように感じます。

適性云々という話で片付けられることが多いですが、端から見て、くすぶっている人がいるなら、もっと輪の中、人前へと引っ張り出してみる。もし、自覚症状があるのなら、自ら輪の中心に立つことで視点が変わり、意識や行動を変えるキッカケにもなるでしょう。ビジネスでも同様です。プロジェクトや勉強会、課外活動やイベントの企画など・・機会は身の回りにたくさん転がっています。

何事も楽しみながら、密かに結果にこだわる

私自身、一旦チームを離れましたが、2010年シーズンからコーチとしてチームに戻り、コーチであるにも関わらず、Gテンポを引き受けることになりました。しかし、年齢を重ね羞恥心が芽生えてきていた時期でもあったのでしょう。選りすぐりのセンス溢れる現役選手数名も巻き込んでやるようにしました。また、ただ掛け声をするのではチームメンバーも飽きてくると考え、笑いを盛り込んだり、より多くのチームメンバーを巻き込んでみたり、時には熱いメッセージを投げかけたり、脱いだり、水を浴びたり・・・毎回いろんな工夫を加える、同じことはやらない。以前よりもクオリティを追求するようになりました。

それらを裏側でプロデュースしてくれていたのが、今シーズンから主将を務める安東君です。ゲームウィークになると、彼から関係者宛に一通のメールが届くのです。そこには、A4一枚にまとめられた台本が添付されています。その内容を平日に読み込み、また必要に応じて互いに修正を加え、当日を迎えます。当日は当日で、ミーティングの合間を縫ってリハーサルを行うなどして、万全の状態で本番に挑むのです。我ながら関心するほど上出来な時もあれば、いまひとつ出来が芳しくなく、その場に冷やかな空気が流れることもありました。

チーム関係者の中には、試合前日にも関わらず・・・と怒りを覚えていた人も少なくないと思います(笑)でも、「笑い」というのは、必要以上の緊張や力みを和らげるだけでなく、チームメンバーとともに共感することで、勇気やエネルギーといったものがどこからともなく湧き出てくることもあって、すごく大事だと考えています。

そして、何より人から見れば、馬鹿げたようなことであっても、前向きに楽しみながら、密かに結果にこだわり、とことん取り組めるメンバーがとても大好きでした。人にはそれぞれ必ず持ち場があるということ。そして、その持ち場というのは、適性という言葉だけで片付けられるものではなく、自ら飛び込んでみることで作り上げられるものだと私は考えています。

言葉の持つパワーを最大限に引き出す

Gテンポは10年以上続けてきていることになります。毎年メンバーは入れ替わっていきますし、Gテンポをやる意味、Gテンポという言葉の持つ意味も様変わりしているように思います。

新しく加入したメンバーにとっては、なんのこっちゃわからないけど、皆につられてGテンポと叫んでいただけなのに、気がつけば、何となく、自分の中でGテンポの意味やイメージ付けられていく・・そんなような気がします。相手のストレスをかけるほどスピード感あふれるテンポがGテンポと考える人もいれば、自分たちがじっくり冷静にプレーできるテンポこそがGテンポと考える人もいるでしょう。私なんかは、Gテンポと聞くと、オフェンスが苦しかったあの頃を思い出し、身の引き締まる思いになります。

毎年掲げられる目標やスローガン、会社でいうところの経営理念や行動指針、社是や社歌といったものも、定期的にただ全員で読み上げるのではなく、そこにもっと捻りや笑いを加えるなどして、まずはひとりひとりが無意識に口づさむ状態を作る。そうすれば、ひとりひとりが時間をかけながら魂を吹き込む作業を繰り返すことで、組織にとって実のある言葉へと仕上がっていくのではないでしょうか。

 

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