ミスマッチを避けるのではなく、覚悟のもと、敢えて挑む

私は現役時代一貫してオフェンスラインというポジションでした。司令塔であるクォーターバックの前方で、大男同士が向き合い、相撲のごとくぶつかり合っているのをご覧になられたことがあるかと思います。その大男たちこそがラインマンと呼ばれる選手たちで、オフェンスサイドに並んでいるのがオフェンスラインマンです。

パスを投げる選手、ボールを持って走る選手の壁となり、体を張って守らなければいけませんので、最低限の体格とフィジカルが必要となります。当時で言えば、身長180㎝/体重100㎏以上、昨今は巨大化が進んでいることもあって、身長185㎝/体重120㎏以上の大男がざらにいるポジションです。そんな中、私はというと、身長177㎝/体重100㎏程度の小さい選手の代表格でしたから、ほとんどの試合において、ミスマッチが自然発生していました。けちょんけちょんにやられまくり、逃げ出したくなりたい時もありました(笑)数多くのミスマッチを経験してきた私ですが、史上最強のミスマッチとも呼べる、忘れもしない試合があります。

2001年秋季リーグ戦でのオンワードスカイラークスとの試合です。私の対面にラインナップしたのは、ジョージ・ヘザーという身長200㎝/体重130㎏超の化け物のようなアメリカ人選手でした。身長差23㎝、体重差30㎏・・・この体格差を考えると、がっぷり四つに組んでは歯が立ちません。そこで、がっぷり四つに組むフリをして、彼の膝もとにカットブロックを打ち続けました。カットブロックとは、相撲でいう猫だまし、柔道でいうなら両手刈りに近しい、ひとつのテクニックです。サイズに恵まれていなかった私は、大きな相手を負かすため、またチーム内競争下で生き抜くための術として持ち合わせていました。

このカットブロックを延々と繰り返した結果、後半に入ると、彼はスタートを切らなくなり、気がついた時にはフィールドからいなくなっていました。定かではありませんが、私が延々と膝もとにカットブロックを打ち続けたことがストレスとなり、戦意喪失して退場したという話を耳にしたことがあります。
私の対面に彼がラインナップすることは、過去の試合映像を見る中で、戦前から誰もが分かっていたことです。もちろん、コーチ陣も分かっていました。明かなミスマッチが生じるとなると、チームとして、未然に防ぐべく柔軟に選手を変えるといった対応をしてきていましたから、私としてはすっかり外されるものだと思い込んでいたのです。ところが、コーチ陣はミスマッチを避けるのではなく、敢えて挑むという決断をしたのです。冷静に考えれば、彼に対し、他の選手をぶつけたところで、状況はさほど変わらない。だとしたら・・・という発想をされたのかもしれません。

オンワードスカイラークス戦のゲームプランが配られる前の段階で、職場にコーチから電話があったのを覚えています。「次の試合はお前で行く!ジョージ・ヘザーにカットブロックを打ち続けろ!」と電話口で告げられたのです。カットブロックを打ち続けるといっても、すべてがすべて膝もとに的中するわけではありません。打ち続けているうちに、相手もさすがに対応してくるに違いありません。仮に、スカってしまったとしても、後ろに位置するランニングバックが間髪入れずにカットブロックを打ち込むというプランだったのです。つまり、試合中に何が起きようとも、私がためらったり迷ったりすることなくプレーできる状況を整えてくれたのです。

ミスマッチを経て、一皮むけ、成長に弾みをつける

コーチ視点で考えれば、1人の選手に対して、2人の選手をブロック要員としてアサインするというのは、かなりの勇気が必要だったと思います。にもかかわらず、私に託してくれたことがとても嬉しかったのです。一人の男として、コーチの期待に応えないわけにはいきません。やや荒っぽい表現にはなりますが、生きるか死ぬか・・・です。ジョージ・ヘザーの膝をへし折るつもりで行く!と覚悟が決まったのを覚えています。

ゲームプラン通り、カットブロックを打ち続けた結果、彼を途中退場させることができたのですが、残念ながら試合には負けてしまいました。しかし、いま振り返ってみて思うことは、この経験がその後のアメリカンフットボール人生に与えた影響は計り知れないものだったということです。当時、レギュラーメンバーとして試合出場し始めたばかりの頃でしたから、この史上最強のミスマッチの戦いを経て、一皮むけること、成長に弾みをつけることができたような気がします。

それからというもの、カットブロックを得意技として、ありとあらゆる場面でトライしてみるようになりました。もちろん、的中することもあれば、スカってしまうことも多々あります。カットブロックというのは、スカってしまうと、とても無様な格好を見せることになります。対戦チームの選手に嘲笑われることもありました。それでも、なりふり構わずにトライし続けていくうちに、気がついた時には、いろんなバリエーションのカットブロックが自然と身に付けていました。それだけでなく、的中率もぐんぐん上がるようになり、カットブロックを打つのが楽しくたまらなくなりました。当時の私のプレーぶりを知る方であれば、「大野洋=カットブロック」というイメージがあるはずです。くだらない自慢話はほどほどにして・・・。よく考えてみると、自チームが優位に試合運びをするためにつくり出すミスマッチが、時に対戦チームの選手にとっての貴重な成長機会となってしまうこともあるのです。なんとも皮肉な話です。

居心地の悪い状態に身を置き続けること

ミスマッチについてのコラムを書きながら思い出した言葉があります。「成長し続けるということは、変化の居心地の悪さの中にい続ける覚悟がいる。」オービックシーガルズのヘッドコーチが口にしていた言葉です。私の場合は、この体格のおかげで、自然発生的にミスマッチという居心地の悪い状態に身を置き続けることができ、結果的にそのことが成長の一助になっていたように思います。

ビジネスシーンに置き換えても、同じようなことが言えると思います。ビジネスの場合は、アメリカンフットボールとは異なり、対戦相手が明確にいるわけではありません。むしろ、自分自身との戦いとも言えます。人間ですから、ついつい易きに流されそうになるものです。そういった意味では、居心地の悪い状態をどう作るかが大事かもしれません。

私の20代の頃の話になりますが、上司がとても厳しい方で、行動のひとつひとつを管理され、やることなすこと否定される毎日でした。何度か辞めることも考えたくらい、当時の自分にとってはストレスフルな毎日でしたが、時間の経過とともに、仕事の基本をイチから叩きこんでくれていたということがジワジワと理解できるようになりました。意図的に作った居心地の悪い環境ではありませんが、やはり居心地の悪さというのがひとつのキーワードのような気がします。

その他、私のまわりには、終業後や休日を使い、自費でビジネススクールに通っている方が何人かいますが、社外に出て、成長意欲の高い人たちとの他流試合をしているという点では、近しいものを感じます。また、ここ数年、若いうちから海外に赴任させたり、関連会社の社長に就かせるなど、修羅場とも言えるような経験を積極的に積ませる企業が増えていますが、それもまた同じような主旨からなのでしょう。年齢と経験を積み上げていくうちに、ついつい要領よくこなす術ばかりを身につけたり、自分にとって居心地のいい状態に留まろうとするものですが、老若問わず、苦労は買ってでもする姿勢を忘れてはいけないのかもしれません。