自由かつ柔軟に活躍機会を創出する

アメリカンフットボールには、オフェンスチーム、ディフェンスチームがあります。それぞれのチームもまた役割によって細分化された複数のポジションで構成されています。これだけ多くのポジションがある中、各選手のポジションは一体どのようにして決定されるのか。競技を始める時点の身体的特徴と保有能力、それに本人の希望やチーム事情などが加味され、最終的には監督コーチや先輩の話し合いのもと決定されることになります。例えば、体格のいい人間であれば、必然的にラインと呼ばれるボールとは無縁のポジションに振り分けられ、チームメンバーを下支えする役割を担うことになります。一方、運動能力やボディバランスに優れ、ボールセンスある人間は、スキルポジションと呼ばれるいくつかのボールを扱うポジションに振り分けられます。また、どちらにも当てはまらない場合は、ある一定の選手層が必要であるラインに知らず知らずのうちに振り分けられるといったこともあったりします(笑)

アメリカンフットボールの特徴のひとつでもありますが、何回でも選手交代ができ、一度交代した選手が再びフィールドに戻ることも許されているため、ひとりの選手が何度もフィールドを出入りしながら複数のポジションを兼任することもあります。また逆に、特定の場面やフォーメーションにおいてある役割だけを担う選手もいます。キッカーやパンターと呼ばれる選手はその一人で、キックやパントを蹴ることだけを専門に担っていることがあります。選手個々の特性に合わせて、自由かつ柔軟に活躍機会を創出することができるスポーツは他にはあまりないと思います。

チャレンジさせることで奮起を促す

私自身、現役時代に2回ポジション変更を経験しました。いずれも半年も経たないうちに、本来のポジションに戻る結果となりましたが、1度目のポジション変更は自分自身の取り組みを考え直す意味でとても貴重な経験でした。今でも鮮明に覚えているのですが、試合出場機会がほとんどないまま終えた社会人1年目のシーズン後の面談にて、当時のヘッドコーチから「出場機会を増やすためにも新たなポジションにチャレンジしてみないか。」とポジション変更を打診されたのです。同期が試合で活躍している姿をベンチで見守っていたこともあって、ヘッドコーチの試合出場機会が広がるという言葉に過剰反応し、ふたつ返事でチャレンジすることを決意しました。しかし、シーズンが始まってみると、私自身が不器用で要領をえない性質ということもあり、先輩やコーチの協力を得ながら時間を見つけては練習を繰り返すものの上達の兆しもなく、試合出場してもミスの連発でした。やることなすこと全てうまくいかず、先輩やコーチの期待にも応えることができない状態がたまらなく辛く、アメリカンフットボールをやめようかどうか悩んだ時期でもありました。逃げたい・やめたいなどといった考えを持ったのは後にも先にもこの時だけです。

いまコーチの立場になってはじめて分かることがあります。あの時なぜヘッドコーチはポジション変更を打診したのか?引退者補充を考えている中、私の能力を見込んで打診してくれたと思い過ごしていましたが、そのポジション経験者が多数いたことを考えると、新人でありながら日々粛々と練習を繰り返していた私に対して、新たなポジションにチャレンジさせることで奮起させたいと考えてチャンスをくれたのかもしれません。結果的には、たった数ヶ月でギブアップしてしまい、本来のポジションに戻ることを自ら志願するという何とも恥ずかしい結果にはなりましたが、私自身アメリカンフットボールとどう向き合っていくかを真剣に考え直す良いキッカケだったと思っています。

認めてもらうことの大切さ

もうひとつポジション変更と聞いて思い出すエピソードがあります。私がコーチになってからの話ですが、ポジション変更によって見違えるような成長を遂げた選手を間近で見た経験があります。その選手というのは、もともと体格とパワーはチーム随一でありながら、それをフィールドでのパフォーマンスにつなげることができず、いくつかのポジションを転々としながら可能性を探るも目立った活躍までには至らない状態でした。ところが、あるシーズンをスタートするにあたり、これまでまったく経験のないポジションにチャレンジすると言いだしたのです。チャレンジするにあたっては、練習やトレーニングだけでなく、日常のひとつひとつの行動すらも変えると宣言し、具体的にやると決めたことを誓約書という形に落とし、それを携帯の待ち受け画面にまで設定して取り組んでいました。これが最後と腹を括っていたのでしょう。春シーズンから着々と力をつけてはきていたものの試合出場までは至りませんでした。しかし、シーズン中盤のある試合で、同じポジションの選手が負傷退場したことがキッカケで彼に出場機会がまわってきたのです。彼自身デビュー戦であるにもかかわらず、持ち前の体格とパワーを活かし、堂々と役割をやり遂げたのです。

先日、彼とランチをした際にこんなことを話していました。途中出場した試合終了後に、ある記者から「あんなすごい選手がいたのか?」と訊ねられたということをコーチから耳にしたらしく、それがとても嬉しかったと話していました。彼自身、自分のプレーにまだまだ半信半疑な時期でしたから、記者という第三者に認めてもらったことが自信につながったのでしょう。誰かがきちんと見ていてあげて、ナイスプレーをした時にはきちんとフィードバックしてあげることの大切さを改めて気付かされました。いまでは、不動のレギュラーとして活躍するだけでなく、日本代表に選出されるまでの選手に成長しました。

 

会社組織で働く以上、異動や転勤、出向や転籍といったものから逃れることはできませんが、その場所での経験を自分なりにどう意味付けるか、どう向き合うかによって、成長機会にもなりますし、新たな自分との出会いがあるかもしれません。また、企業も組織の硬直化や属人化を防ぐためだけでなく、個々の成長や奮起を促すためにも自由かつ柔軟な発想で配置転換を考えることがあってもいいのかもしれません。

 

%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e5%a4%89%e6%9b%b4