ビジョンは「日本を代表する総合IT企業グループを目指す」

ゲームおよびWebシステムやアプリの受託開発を手掛けている、株式会社アドグローブ。ゲームとWebシステム/アプリの売上比率は半々。ゲーム開発領域の強みとしては、コンシューマーゲームとソーシャルゲームそれぞれの開発経験者がバランスよく在籍していることで、課金設計、映像表現、大規模トラフィックに耐えうるサーバー/インフラの開発、VR(仮想現実)コンテンツ開発など必要な技術要素の全てにワンストップで対応できることが挙げられる。

Webシステム/アプリ開発においてはAIにも積極的に取り組み、自動作曲システムやデバイス分類システムなどの開発実績がある。そのほか、ソーシャルギフトサービス『デジバナ』、医薬品情報システム、大手通信キャリア公式サービスなどのB to CのWebシステム領域から、集中発注システムやMVNOプラットフォームサービスなどB to Bのシステム開発領域まで、幅広い実績がある。

「今後、ゲームの自社タイトルや独自のB to Bツール、AIを絡めたコンテンツなど自社製品の開発にも力を入れていきます」と代表取締役の小林宏至氏は言う。

2017年6月現在、4社の子会社を擁するグループ経営を行っており、社員数は計130名強(単体では約100名)。そのような規模でありながら、会社負担による「退職金制度」や「確定拠出年金制度」など大企業並みの福利厚生制度を整備している。そこには、“社員第一”の方針のもと、長く安心して働ける組織風土をつくり、「日本を代表する総合IT企業グループを目指す」というビジョンがある。

“個人”から“経営者”へシフト、規模拡大を決断

小林氏は、ゲーム会社やWebシステム開発会社でデザイナーやエンジニアとして経験を積み、30歳の2010年5月、ゲームの受託開発会社として同社を創業する。2012年頃から、ゲーム市場では開発コストがかかるネイティブアプリの比重が増え、自社タイトルの開発のためには体力をつける必要があると、規模拡大を目指して4年目に現・専務取締役である旧知のエンジニアを招いてWebシステム/アプリ開発領域に進出した。

「独立したのは、自分がやりたいように仕事をする環境をつくりたいとの思いがありました。Webシステムを手がけるまでは10人程度の規模でしたが、手がけ始めると一気に50人ぐらいにまで増えたのです。その段階で、それまでの“自分がやりたいように仕事をする”という方針を改め、規模拡大のために自分はグループ経営に徹することを決意しました」

50人を超えたあたりで、「組織の隅々まで見れていたつもりだったが、見れていなかったことに気づいた」と小林氏。規模を拡大させるにはこれまでのやり方は通用しないと自覚し、現在6名いる部長クラスの幹部人材に権限を委譲し始めた。

「その決断の時、自分でつくりたいものをつくって世に問うことと、社員が主体的にものをつくることをサポートし社員がやりがいを感じるのと、どちらが自分の性に合うのか自問自答したのです。そこで、自分は後者だと。自分が笑うより、社員が笑っているのを見るほうが楽しかったからです。社長が現場に口出ししてもろくなことにならないケースも見てきましたし、自分は多少不自由な思いをするかもしれないが、それも悪くはないと思えたのです」

“船団”のようなグループ経営を志向

小林氏が“日本を代表する総合ITグループ”を目指す背景には、「利益を社員に還元しつつ会社を存続させるためには、力をつけていく必要がある」との考えがある。その拡大のさせ方として、“船団”のようなグループ経営を志向している。小林氏は次のようにそのイメージを説明する。

「ある程度の規模ごとに船長を置き、人事評価システムや組織マネジメントといった船の運営は、基本的に全て船長に決めてもらいます。船ごとに独自のカラーができると思いますが、そのことによってある船に合わない人は別の船に乗り換えることができるといったグループとしてのリテンションを狙います。したがって、私は船団長として全ての船に共通する退職金制度や年金制度を揃え、船団の一つの目的地に向かわせる役割を負います」

なお、同社では株式上場はしないと決めている。上場することで株主のための事業運営を強いられ、社員がやりたくもない仕事を無理強いしなければならなくなるからだ。

「現に、上場を目指す、あるいは上場した会社が嫌になって当社に転職してきた社員が少なくありません。上場による信用性や知名度、資金力、採用力の向上といったメリットよりも、社員のモチベーションを阻害するデメリットのほうが大きいと判断しています」

長期的・持続的な施策を実行してこそ“社員のための経営”

冒頭で触れた「退職金制度」や「確定拠出年金制度」には社員を退職しにくくするという狙いもあるが、社員のモチベーションを高めることが大きな目的としてある。

「もの凄く仕事ができる上位10%と、逆にできない10%以外の80%の人は、モチベーションを高めればいくらでも成果を上げる働き方をしてくれると確信しています。定年まで真面目に働けば定年後も安心して暮らしていけるという環境にあってこそ、人は現役時代に思い切り仕事にチャレンジし、思い切り人生を謳歌できるのではないでしょうか。昨今よく見聞きする“社員のための経営”とは、短期的・単発的な施策ではなく、社員の30~40年後までを視野に入れた長期的・持続的な施策を実行してのみ、標榜できることだと思っています」と小林氏は指摘する。ちなみに、同社ではそのほかに賞与の年3回支給や住宅手当という短期的な還元施策も実施している。

では、実際にこれらの制度について、社員はどのように受け止めているのだろうか。

「正直言って、20代の社員はまだピンと来ていないと思いますが、30代以上は非常に充実していると評価してくれていますね。他社を経験していることもありますが、家庭ができて安定性も重視するようになるからだと見ています」

モチベーションを高める施策の数々

社員のモチベーションを高める施策はほかにもある。仕事面では、本人のやりたい仕事を定期的にヒアリングし、できるだけ実現させている。「受託開発が多いので100%応えることは難しいが、それでも今の仕事がやりたいことに近づく上で必要な経験となっていることは常に意識させている」と小林氏。また、現場では問題点についてみんなで意見を出し合っていく空気を浸透させ、やりがいを感じやすいように配慮も。

入社したばかりの中途採用の社員がどれだけ優秀であっても、いきなり大きな役割を与えたり権限を委譲するといったことはしないという。

「仕事はできる人のところに集中するのは自明であり、またそうしていくべきとも思いますが、一定の時間が必要だと思っています。いきなりスポットライトを当てるようなことをすると、以前からの社員が嫉妬し、無用の軋轢を生むからです。私自身、独立前に努めた会社でそういった風景を見て来ました。ですから、現場が自然に求めてくるまで私が役割を与えることはしていません」

人間性重視の人材採用と、スタートダッシュ重視の人材育成

人材採用に当たっては、能力よりも人間性を重視。「どれだけ知識や技術が優れていても、人間性に問題があるとチーム全体のパフォーマンスを下げる」(小林氏)からだ。そして、“イノベータータイプ”と“着実・堅実タイプ”をバランスを取りつつ採用しているという。どちらも組織には必要で、その比率のバランスを取る必要があるからだ。

人材育成においては、スタートダッシュの期間を最重視して取り組んでいるという。小林氏は次のように説明する。

「新人には、まず毎日会社に来ること、と言っています。月曜日も、連休明けも会社に来なさい、と。当たり前のようですが、当たり前ではない人もいるということです。毎日会社に来れば、周囲に信頼されるようになります。そして、『まだ50点の出来でもいいから、つくったものはすぐに周囲の先輩や上司に見せなさい』と言っています。鉄は熱いうちに打てといいますが、その段階で上達者からフィードバックを受け、コミュニケーションする癖をつけることで、後はチームの中で勝手に成長していけるからです。私がこのことを口を酸っぱくして言っているのは、人にはいいモノを見せたいというプライドがあるからです。しかし、会社としては新人からいいモノをつくることは求めていません。いいモノをつくれるように早く成長してもらうことを求めています。その点で、芸術家気質の人はフィットしませんね」

性善説に基づく“社員第一主義”の経営哲学

IPOや事業売却で短期的に大金を手にしたり、“ブラック企業”のように従業員に酷な環境を強いて私腹を肥やす経営者が少なくない。そこまでいかなくても、社員の待遇は“一般的”に留めている経営者が圧倒的多数だろう。小林氏のように“社員第一主義”を愚直なまでに徹底している一連の組織づくりの根底には、どんな経営哲学があるのか。

「性善説を信じているのかもしれませんね。誠意をもって接すれば、相手も誠意を持って返してくれると。逆に、社員を裏切るようなことをすれば、しっぺ返しのように跳ね返ってくると。それともう一つ、そもそも会社を売ったりIPOして経済的に豊かになることが、自分にとって楽しいことなのかという疑問もあります。」

ちなみに、同社の運営している確定拠出年金制度の平均掛け金は9,500円で、運営を委託している金融機関の全運営企業平均である約4,000円の倍以上。一時退職金制度と併せて、社員1人あたり1万5,000円以上を積み立てている。社員100人で150万円、年間1,800万円だ。

「それほど大した金額ではありません。だから続けられているともいえます。しかし、当社程度の規模で運営している企業が極めて少ないのは不思議ですね。こういったお金の使い方に、経営者の哲学が色濃く出るのでしょうか」と、小林氏は疑問を投げかける。

 

会社名
株式会社アドグローブ
所在地
東京都渋谷区東1-26-20 東京建物東渋谷ビル6F
資本金
1,000万円
従業員数
連結131名(単体103名)(2017年5月現在)
事業内容
ゲームの企画・開発・運営、スマートフォンアプリの企画・開発・運営、業務系システムの設計・開発・運営ほか
ウェブサイト
www.adglobe.co.jp