『歯が抜けたら入れ歯をする』という当たり前のことが
もっと普通に社会に受け入れられるように

“入れ歯をアタリマエに”を企業理念に掲げる、“入れ歯専門会社”の株式会社バイテック・グローバル・ジャパン。歯や歯ぐきは加齢とともに弱くなり、80代ともなれば約80%は入れ歯を使うようになる。超高齢社会を迎えている日本には、2,800万人ともいわれる入れ歯利用者がいる。しかし、人の口にジャストフィットする入れ歯をつくることは簡単ではなく、多くの利用者が「痛い」「噛めない」「外れやすい」といった悩みを抱えているという。

同社は、生体用シリコーンで入れ歯を覆う「コンフォート」という特殊加工技術を独自開発(日米で特許取得)。硬い入れ歯と歯ぐきの間でクッションの役割を果たすことで、歯ぐきの保護や痛みの軽減、抜群の吸着力で外れにくくするといったメリットを全国約8,000の歯科クリニックを通じて提供している。

また、直営の入れ歯専門の歯科医院の運営や、入れ歯づくりの技量が高い歯科医に「ハイライフ入れ歯専門外来」を設置するフランチャイズ事業を展開。2016年8月現在、直営2カ所、フランチャイズ17カ所を数える。

さらに、入れ歯洗浄剤など関連商品の製造販売や、「コンフォート」をベトナムやインドネシアで展開する海外事業も手掛けている。

「日本人の5人に1人は入れ歯利用者であるにもかかわらず、入れ歯を使うことに対しては『年老いて、もう人生も終わり』といったネガティブなイメージがあります。一方、メガネにはそうしたイメージはありませんね。当社は、『視力が落ちればメガネをかける』のと同様、『歯が抜けたら入れ歯をする』という当たり前のことがもっと普通に社会に受け入れられるようにしたいと考えています」と同社を創業した代表取締役社長の鷲巣祐介さんは言う。

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新人と社長だけの「新人会議」と全員対象の「理念研修」

2016年8月現在、同社の従業員数は55名(うちパート10名)。歯科技工士、歯科医、歯科衛生士といった専門職(非常勤含む)や、営業、管理、企画などを担う総合職によって構成されている。2004年の創業以来、会社として必要な機能を担う即戦力人材を中途採用で調達し徐々に規模を拡大してきた。その結果、多様な職種構成となる。

「できるだけ求める人材像にこだわった採用活動をやりたかったのですが、求めるレベルと年収などの条件とのせめぎ合いの中で、無名の小規模企業ゆえ妥協せざるを得ない局面もありました」と鷲巣さんは打ち明ける。その結果、最重要であるはずの理念が思うように浸透せず、濃淡や温度差が生じ、一体感が育みにくいという悩みを抱える。

「4年ほど前、以前の会社の先輩に相談したところ、『だまされたと思って、新卒を採用してみろ』とアドバイスされたのです。さっそく2015年4月に3名採用して、少しずつ会社を変えていきました。2016年は6名を採用しています」

鷲巣さんは、週2回、新人と社長だけの「新人会議」を始めた。新人の仕事内容の把握や、困っていること、周囲に対しておかしいと思うことなどをヒアリング。

「例えば、上司や先輩の発言への疑問に対し、新人の理解不足と思われることは『こういうことだと思うよ』と解説し、明らかに新人の言っていることが正しいと思えば『俺から彼に言っておく』と伝え、先輩社員のマネジメントの機会に活用しています」

このように、組織において直属の上司や先輩を“飛ばし”てマネジメントすることは、一般的にはご法度だ。しかし、鷲巣さんは承知の上であえて行っている。

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「新人会議」とともに、パートを含む全従業員を対象に、月1回の「理念研修」も始めた。

30分間、鷲巣さんが最近考えていること、感じていること、新しいサービスの構想から最近読んだ本の感想まで、好き勝手に話す。朝早い時間を活用して行うため、ママ社員など参加できない人もいるので、動画に取って共有する。そして全員に感想を求め、それに対して鷲巣さんが一人一人に返事を書くという内容だ。

「始めた当初は、『そうは言われても自分はこう思う』といったネガティブな感想も多くありました。私の考えが今一つ伝わっていない感じですね。ところが、これを1年続けたら感想の中味が変わってきたのです。私の意図を汲んでくれているコメントが増えるようになりました」

 リタイアしないことでしかゴールにたどり着けない
「ぐるっと房総100㎞ウォーク」

一体感が育みにくいという悩みを抱えていた鷲巣さんは、全社員の共通体験、共通言語を求めて、2011年から毎年4月、「ぐるっと房総100kmウォーク」に参加している。28時間という制限時間で、東金市からいすみ市にかけて1周100kmのコースをひたすら歩くという大会だ。「いつでもリタイアできるが、リタイアしないことでしかゴールにたどり着けないという、当たり前であるが厳然とした事実や心理を体感できるところが非常にいい」と鷲巣さんは評価する。

当初は社員の中から有志を募る形でスタート。「こういうことを面白がるメンバーやポジティブなメンバーが参加し、完歩できた人は『参加して良かった』と言ったものの、次の年はもう有志はいなくなった」という。その後も「パワハラだ!」と抵抗する者もいるほど、逃げ腰の者がほとんどであった。

「このイベントの効用を確信していたので、数年前からついに強制参加にしたのです。ほぼ全員がブーブー言いました。しかし、完歩できた者はその後だれ一人文句を口にしなかったのです。おそらく、『やろうと思えばできる』という達成感を味わえてもらえたからだと思います」

2016年度は、ほぼ全員が自発的に参加したという。

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“できるか、できないか”ではなく
“やるか、やらないか”が大事

「ある女性社員は、頭から『私は腰が悪いから無理です』と拒絶しました。やろうともしないで、できない理由を並べているだけなんです。私は『君は毎日通勤している。5mや10mは歩けるだろう? つまり、スタートラインには立てるよね? ならば、立つだけ立ってみようよ』と言ったわけです。彼女は完歩できませんでしたが、自分より体格が弱そうな人が元気に歩いている姿を見て、悔しいと思ってくれたのではないでしょうか。このイベントの意義は、できなければできないで、次にどうすべきかという発想やアクションが生まれるなど、まずはやってみることが大事だということが体感できるところにあると思っています」と、鷲巣さんは「ぐるっと房総100kmウォーク」に参加し続ける理由を話す。“できるか、できないか”ではなく“やるか、やらないか”が大事なのだということを、全員に理解させる機会として活用しているのだ。

同社のビジネスは、既存の歯科医から入れ歯だけを切り出して専業化するという、ほかにないモデルである。

「つまり、参考にできる先行者はいませんから、すべて自分たちで考えてやるしかないのです。何かを紐解いたところで、成功するとは限らない。まさにフロンティアを開拓し続けるビジネスです。“できるか、できないか”を考えていても始まらない。“やるか、やらないか”しかないのです」と鷲巣さんは強調する。

中途入社者が主体となりがちな中小規模の、特にベンチャー企業にとっては大いに参考になるケースといえるだろう。

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会社名
株式会社バイテック・グローバル・ジャパン
所在地
東京都中央区月島2-14-12 3F
資本金
5000万円
従業員数
55名(2016年8月現在)
事業内容
コンフォート事業 / ハイライフ事業 / 入れ歯関連商品企画製造販売