国内最大級のSupply Side Platform(SSP)を運営

国内最大級のSupply Side Platform(SSP)を運営している、株式会社fluct。SSPとは、Webメディアに掲載する広告の最適化を図る、“アドテクノロジー”と呼ばれる仕組みの一種。例えば、あるWebメディアに人がアクセスすると、SSPはその人はこれまでにどんな種類のWebサイトをよく閲覧しているのかといった履歴から属性を分析し、複数のDemand Side Platform(DSP)と呼ばれる広告配信ネットワークに「今、こういう人が来ています」という情報を送る。すると、DSPは広告主から預かっている広告の中で、そういうターゲットに見てもらいたい広告の予算金額を提示。SSPは「Real Time Bidding」という技術で最も好条件の広告を選び、そのWebメディアに掲載する。一連の手続きは瞬時に行われる。

こういったアドテクノロジーは、2008年に発生した“リーマン・ショック”で職場を負われたウォール街の金融機関のエンジニアが広告業界に転じ、株などの売買システムの技術を転用して開発した。インターネットのアドプラットフォーム事業などを手掛ける東証一部上場の株式会社VOYAGE GROUPのグループ企業として2008年に設立されたfluct(当時の社名は株式会社adingo)は、2010年にSSPを事業化、トップクラスの存在に成長したリーディング・カンパニーといえる。なお、同グループは「働きがいのある会社」ランキングの従業員100‐999人部門で、2015年から3年連続で第1位に選出されている。

約100億・90名の組織を束ねる31歳のトップ

2017年4月現在、fluctの年間売上高は100億円を超える。VOYAGE GROUPの連結売上高200億円強の半数近くを占める、中核会社だ。社員数は約90名で、コンサルティング(営業)本部、アライアンス本部、オペレーション本部、エンジニアリング本部などの専門性を意識した機能別組織となっている。中途入社者が約60%を占め、平均年齢は32歳。

そんな同社を引っ張る経営者は、代表取締役兼CEOの古谷和幸氏と、代表取締役兼COOの土井健氏の2人。ただし、古谷氏は主に新規事業の探索やグループ会社の役員を兼ねる業務に徹しており、実質的な経営は、31歳の土井氏の双肩にかかっている。

土井氏は、2008年の大学卒業後にモバイルコンテンツ事業などを手掛ける株式会社サイバードに入社し、社会人キャリアをスタート。2011年に株式会社ECナビ(現・VOYAGE GROUP)に転じ、adingo(現・fluct)に出向となる。スマートフォン向けの広告市場が伸び始めた当時、コンサルタントとしてそのSSPの立ち上げにかかわる。

「当時の営業は自分含めてたった2人。競合に負けないよう、毎日遅くまでテンション高く仕事をしましたね。その後、サービスの機能拡充や提携がうまく進んだこともあって、スマホの普及とともに爆発的な成長を遂げていきました」と土井氏は振り返る。

“0 → 1” と “1 → 10” を役割分担

そして、グループ内でメキメキ頭角を現した土井氏は、入社2年半後の2014年に取締役に抜擢される。一般的に、若くてハイスピードな事業展開がなされているITベンチャー界でも珍しい“スピード出世”といえるだろう。さらに、親会社となるVOYAGE GROUPのボードメンバーにも就任。こうしたレイヤーでも活躍を続け、2016年10月、代表取締役兼COOに就任する。

「実は、自分からCEOの古谷に『代表取締役にしてほしい』と申し出ました。ビジネスの種を見つける嗅覚に天才的に優れていて、現にSSPで当社を大躍進させた古谷は“0 → 1”をつくることに徹し、“1 → 10”が得意な自分が経営実務を手掛けたほうが早く成長できると判断したためです。古谷は即座に理解して合意してくれました」

こうして、当時30歳という平均年齢以下の若い社長が誕生する。自分より年長のメンバーのほうが多い組織をまとめていく“やりにくさ”は容易に想像つくが、実際にはどうだったのだろうか。

「苦労したこともありましたが、ごくわずかです。自分が本気になって、自分自身のエゴではなく、事業をよくしていくためにこうしていきたいと言えば、年齢や入社年次など無関係に理解してもらえます。意見が合わないことがあれば、どこかにズレがあるから合わないのであり、もし自分がズレていれば修正すればいいわけです。ですから、それほどやりにくさは感じませんね。VOYAGE GROUPでは、“CREED(クリード)”と呼ぶ価値観を重視し、共感する人材だけを厳選採用しています。つまり、一体感をつくる素地ができているので、スムーズにいくのではないかと考えています」

企業運営の柱は8項目の“CREED”

その“CREED”とは、次の8項目だ。

「挑戦し続ける」
「自ら考え、自ら動く」
「本質を追い求める」
「圧倒的スピード」
「仲間と事を成す」
「すべてに楽しさを」
「真っ直ぐに、誠実に」
「夢と志、そして情熱」

VOYAGE GROUPでは、現場への浸透と徹底のために、この8項目を人事考課の指標にしている。年2回の考課では、上司・同僚・部下が本人のCREEDの実践度合を360度評価。「社員は自ずと意識するタイミングとなっており、浸透の強力なフックになっている」と土井氏は言う。

この価値観を共有する一定レベル以上の人材が集っていることもあり、同社の組織風土はフラットだ。

「社長の自分がミスをすると、社員から普通に咎められます(笑)。本部長、取締役、社長と上のポジションにいっても、決して満足しないように心がけています。『今の自分があるのは、運や周囲に恵まれたから。凡人の自分はもっと努力しなければならない』と常に言い聞かせています」

この謙虚な姿勢が、土井氏のマネジメントポリシーの軸にある。前述のとおり、国内トップクラスのSSPに発展した今、同社は次のステップアップを模索している途上にある。この局面を、土井氏はそんな謙虚さで突破しようとしている。

真っ直ぐに反論する、やりづらい人をアサイン

アドテクノロジーの黎明期は、1人ですべてをこなしていける少数の精鋭を確保すれば、ビジネスをつくっていくことができた。そして成長を始め、業界で4~5位ぐらいにつけた頃は、「No.1を取ろう!」で社内はまとめられた。No.1を取るために何が足りないのかをあぶり出して、それを補っていけばいいからだ。

「競合他社のやり方が見えていましたので、それを先にやれば勝てると踏んでそのとおりにしてきました」と言う土井氏らは、実際に同社をNo.1に駆け上がらせることができた。

「そして今、No.1になった時点で次に何を目指すのかが、経営の最大の課題になっています。実は、SSPには“世界一”の存在があり、当社の数倍の規模を持っています。『世界一を取ろう!』では現実感がありません。この課題を議論するために経営を担うBOARDメンバーをつくり直しました。ここから120%、130%と伸ばしていくのに、私の能力では限界があると感じたからです」

社長に就任してから、事業の各機能を代表する十数名の本部長が四半期ごとに合宿を行って組織の見直しや経営戦略の策定などを行ってきた。しかし、その体制では「推進力が落ちた」と感じた土井氏は、テコ入れを迫られる。そこで、十数名の中から5名のボードメンバーを選出し、より少数で喧々諤々、議論を深めていく体制に改めた。このボードメンバーの選定基準に、いかにも土井氏らしい謙虚さが表れている。

「真っ直ぐに反論してくれる、自分にとってはやりづらい人を選びました。イエスマンを並べても意味はありません。異を唱えてくれるからこそ、既存の自分にはない考え方を取り入れ、既存の延長を打破していけると思うからです」

「働きがいのある会社」3年連続No.1

それだけではない。土井氏は、このボード会議の議事録を個人の人事など一部を除いて全社員に公開し、“経営の透明性”を最大限に高めているのだ。その狙いについて、土井氏は次のように説明する。

「本で読んだり人に教わったりしたことですが、これまで没落していった企業のほとんどにおいて、社員が『上の人は何を考えているのかわからない』という状況があったのではないかと思います。当社は、そろそろそういったフェーズに向かいやすい規模に近づいていると感じました。そこで、経営陣が今どんな問題意識を持ち、それをどうしていこうとしているのかをすべて共有することにしたのです」

まさに、経営陣が悩んでいることをオープンにしようということだ。そのレベルが低ければ、優秀な社員は幻滅を感じて辞めてしまうかもしれないが、「有効な議論をしているという自負もあるので、社員からは概ねいい反応が返ってきている」と土井氏。議事録には「意見や感想は何でも言ってほしい」というメッセージをつけていることもあって、「面白い」「経営の考えていることがよくわかった」といったコメントが続々と寄せられるという。

なお、土井氏は社長室を設けることはせず、一般社員の“島”にデスクを置いている。しかも、「元気がないなど気になる社員の隣に座るようにしている」という気の回しようだ。

同社のグループが「働きがいのある会社」の3年連続No.1に選定される要因は、こういった風土にあることが察せられる。それ以外にも、誰でも気軽に何でもトップエンジニアに聞ける「オフィスアワー」の実施や、海賊船を模した社内バーで夕方から自由にお酒を楽しめるといった施策も奏功しているようだ。

土井氏は、次世代の育成にも手を打っている。週1回、次を託せそうな人材6名をピックアップし、事業計画づくりや競合の解剖などを通じて知見を深めさせる「土井プロジェクト」を実施。

「業界を俯瞰し、経営戦略を考えていける素地をつくりたいと考えています」

31歳にして熟練経営者の観もある土井氏と同社が今後どう成長し、いつ“世界No.1”の座を奪取するのかが楽しみだ。

 

 

会社名
株式会社fluct
所在地
東京都渋谷区神泉町8-16 渋谷ファーストプレイス 8F(VOYAGE GROUP内)
資本金
5,000万円
従業員数
約90名
事業内容
SSPの企画・開発・運営
ウェブサイト
https://corp.fluct.jp/