「窓をつうじて社会に貢献する」など5項目の経営理念

建築用板ガラス、住宅用・ビル用サッシなどの卸およびペアガラスなどの製造、ガラス切断加工などを手掛けている、マテックス株式会社。ガラスやサッシメーカーから仕入れ、街の販売店に卸すというビジネスモデルだ。関東一円に約2,000社の取引先を擁している。
2枚のガラスの間に空気の層をつくり断熱効果を高めた「ペアガラス」など、同社が窓を組み立てる場合もあるが、基本的に当該業務は現場に近い販売店や工務店の仕事。しかし、バブル崩壊以降、川上のガラスやサッシのメーカーが窓の組み立てまで進出し始め、川下の仕事を奪う事態も起きているという。
「販売店さんや工務店さんは、休日や夜間なども関係なく現場のニーズに迅速かつきめ細かく対応しています。そうした小回りの利く対応を、大企業のメーカーさんが得意とは思えません。我々は、やはり川下にお任せすべきと考えており、経営理念の一つとして『「卸の精神」を貫く』と掲げています」と代表取締役社長の松本浩志氏は言う。
その経営理念には、ほかに「窓をつうじて社会に貢献する」「信用を重んじ誠実に行動する」「浮利を追わず堅実を旨とする」「人間尊重を基本とする」があり、計5項目が掲げられている。松本氏が自ら考えたものだ。

創業80年に社長就任「80年も続いた良さ」を先輩に聞き歩く

松本氏は先代社長であった父親を継ぎ、2008年に社長に就任した。期しくも、創業80周年の年である。その前年に父親から「そろそろ交代を」と告げられてから、松本氏は新たな経営理念の必要性を感じ始めたという。
「これから若い世代の社員を中心に会社をつくっていく上で、ベクトルを合わせる必要があると考えました。そして、どんな組織づくりをしていくか、あるべき会社運営とはどういったものかを考え、推進していく基軸のようなものが欲しいと思ったのです」
それまでも経営理念はあったが、松本氏は「誰が考えたものかも知られていないお題目的なもので、あまり顧みられてはいなかった」と打ち明ける。それまでの同社には、営業セクションや担当者同士で売り上げを競い合う“業績第一”の風土があった。
「街を歩けばそこいら中に窓があるように、窓とは極めて社会性の高い商材です。売り上げを競い合うことよりも、社会的貢献度をより認めてもらい、その結果として業績に繋げるような経営の在り方を目指したいと思いました」
創業80年という節目に社長に就任する松本氏は、経営理念の策定にあたり「80年も続いたのは、当社の良さをお客様や社員が認めてくれたからこそ。それが何かをつかむことから始めよう」とOBや古参社員に話を聞いて回った。そうして8カ月ほどかけて作成したエッセンスが、先に紹介した5項目である。

「経営理念浸透café」でカジュアルに語り合う

社長就任後、さっそく“理念経営”を始めようと、松本氏はまず「経営理念浸透café」をスタート。本社のほか、首都圏の9カ所に展開している営業所や製造拠点を松本氏が回り、社員とお菓子をつまみ、お茶やジュースを飲みながら経営理念の意義についてカジュアルに語り合うという場である。
「経営理念とは、まさに額に掲げるだけのものではなく、いかに体現するかが問われるものです。そのために、この一つひとつを自分たちの血肉にしていかなければなりません。そこで、まずは社員たちに気楽に考えてもらおうと“cafe”という言葉を付けて始めてみました」
しかし、先代社長時代からの幹部社員も多く残る中、従来の風土を変えようとする松本氏に抵抗感を示す者もいたという。
「『若社長が余計なことを始めた』などと心のどこかで思っていた社員はいたと思います。そこで私は、『80年も続けて来られたのは先輩方のおかげ』と頭を下げながら、丁寧かつしつこく説き続けました」
「経営理念浸透café」を始めるに当たり、松本氏は250名弱、グループ全体では290名弱に及ぶ社員全員の顔と名前はもとより、性格や業務の状況などの頭に叩き込んだ。「そうすることで、社員は認められていると感じ、私の話を聞く耳を持ってくれる」と考えたからである。

理念浸透を急ぐために“コア・バリュー経営”に着目

しかし、理念の浸透には時間がかかる。もっと急ぎたいと感じた松本氏は、その対策を求めて情報収集。そうした2010年の頃、“コア・バリュー経営”に出合う。
“コア・バリュー”とは、文字どおり企業の中核となる価値観のこと。社内に徹底することで、社員の誰もがマニュアルに書かれていないことでも自らその価値観に則って統一感のある判断・行動ができるようになる。つまり、社員の“任意の心”で顧客を満足させたり、企業にイノベーションをもたらしたり、苦境時でも社員が結束するようなメリットが期待できるものだ。
「大変素晴らしい考え方だと思いました。経営理念は生まれつきの骨格のようなもので、“コア・バリュー”は筋肉や体質のように常に鍛えられるもの。これにより、しなやかな組織ができると感じたのです。経営理念に基づく“コア・バリュー”を行動基準にすれば、経営理念の浸透にドライブがかけられると確信しました」
そこで、松本氏はさっそく“コア・バリュー”の策定に入った。

10項目による“コア・バリュー”

リーダー格の20名ほどの社員に1人10案、“マテックスらしさ”“大切にしたい考え方や価値観”を出してもらった。それを松本氏が10の案に集約、さらに検討を重ね、下記の“コア・バリュー”を決めた。

1.お客様の真のよろこびを追求する
数字では表せない領域に「感動」はある
2.「オープン」「フェア」かつ「温かみのある」
人間関係 
チームの和を育む最大の力は「仲間」
3.「成功」「失敗」から考え、学ぶ
平等に約束されていることは「成長」その過程を重視し見守る
4.「称賛」「感謝」はすることに価値がある「いいね!」を増やす
5.ポジティブに考え、挑む
「どうなるか…」より「どうするか」を追求する

6.地図にない領域に足を踏み入れる
新しいことに興味を持ち、情熱と創意工夫で切り拓く

7.チームの多様性を大切にする
聴く耳を持つ、相手の考えを尊重する
8.率先して楽しむ
「場」をつくり、「雰囲気」をつくる

9.組織の一員である以前に、ひとりの人間として正しいことを追求する
「誰が言うか」ではなく、「何を言うか」を大切にする
10.マテックスが誇る最高の品質は「信頼」
世代を超えた関係は「信頼」の上に築かれる

これらの上に、「地域事業者と共創し、生活者の豊かな住まいづくりのソリューション(解決策)をお届けす  る」という“コア・パーパス”(存在意義)も定めた。

“コア・バリュー”を浸透・促進させるための多種多様なイベント

「理念浸透café」以外に、次に挙げるような“コア・バリュー”を浸透・促進させるための多種多様なイベントが縦横に行われているところが、同社の“コア・バリュー経営”の真骨頂といえる。

●「社会的取り組み 2011~2013」
2011年から毎年12月に行っているトークセッション。NPOや財団法人の代表者を招き、同社の事業活動の社会的意義を客観的に評価してもらうといった内容。第三者に評価してもらうことで、社員に自社の事業の意義をより納得してもらうことを目的としている。

●「マテックスLIVE」
会社の存在意義や自分たちの仕事のあり方について、熱量の高い参加型ワークショップやセミナーを通じて考える全社イベント。「マテックスの社会的取組み」をリニューアルし、2014年以降、現在の形となった。

●「“Vision90”プロジェクト」
部課長クラスのリーダー社員と創業90周年を迎える2018年までに組織風土をどう変えるかを見つめ直し、リーダーシップのあり方を考える取り組み。まず「家族的」「競争重視」「創造的・柔軟」「トップダウン」という4つのディメンションで組織風土の在り様を図式化し、過去からの脱皮を図っている。
「過去は比較的“トップダウン”“競争重視”に広い台形であったものを、“家族的”“創造的・柔軟”がより広い“逆台形”を目指す、といった意識合わせに活用しています」(松本氏)
本プロジェクトでは、リーダー社員の視野を広げ物事を多面的に考えられるようにするため、ドキュメンタリー映画や、哲学をテーマとするわかりやすい絵本などを題材に“正解のない問題”を考える研修も行っている。
「従来は“俺の背中についてこい”的なリーダーシップがよしとされてきましたが、これからはまず相手に奉仕し、その後相手を導く“サーバントリーダーシップ”が求められたりもすると思います。そういった視点を身につけるために“眠っていた細胞を呼び覚ます”効果を狙っています」(松本氏)

●「新卒採用」の変更
新たに迎える人材に対して“カルチャーフィット”を行うために、採用方法をガラリと変えた。
まず、セミナーで松本氏が大切にしたいことなどを話し、次に社員に加わってもらい、同社での働き方や組織風土についてのトークセッションを行う。
「私や社員が学生に囲まれ、生々しい質問も受けながら現場のリアルな姿を伝えています。決してカッコつけたりせず、当社のありのままを見せることを第一にしています」(松本氏)

●「エンゲージメント調査」
組織づくりがうまくいっているかどうかを定点観測し、社員に実感させたりさらなる努力を促すためのアセスメント調査を独自開発。社員との個人面談にも活用している。
「それまでの面談では、業務量や難易度といったことばかり話してきましたが、本調査導入以来、チームにおける自分の役割はどう発揮されているか、といった話にシフトしてきました」(松本氏)

●「スイッチ/アクセルミーティング」
4~5月の上期および10~12月の下期に、それぞれ顧客と一緒になった業績向上のためのキャンペーンを行い、キックオフミーティングではそれぞれがどう取り組んでいくかをチーム別に発表。演劇仕立てにするなど発表に工夫を凝らし、盛り上げている。

●「コア・バリューを楽しむ夕べ」 職場単位で、お互いのメンバーの“いい仕事ぶり”を伝え合うイベント。「やるなら楽しく!」という発想から、全員で変装し、ハロウィンパーティーを兼ねている職場もある。

●「職業体験イベント」
顧客である販売店や工務店の従業員の子どもを招き、窓を扱う仕事の素晴らしさを実感してもらう。
「日ごろ、なかなか自分のお子さんに仕事の素晴らしさについて話す機会などないでしょうから、当社で機会を提供させてもらっています」(松本氏)

●「社内モチベーションSNS『HOOOP』」
10の“コア・バリュー”を「チームワーク」「迅速丁寧」「向上心」「思いやり」「自主性」といったキーワードに簡素化、日頃そういった行動をした社員にそれぞれのキーワードの“バッヂ”を贈るしくみのアプリ。個人別、組織別にバッヂの獲得状況を集計でき、レーダーチャートで傾向を分析できる機能もある。
「“コア・バリュー”の実践状況が“見える化”でき、非常に便利であるとともに大きな推進力をもたらしてくれています」(松本氏)

短所を追及するより長所をさらに伸す雰囲気を醸成

こういった数々の施策により、「昔からのマテックスを知っている人は皆『本当に様変わりした』と言っている」と、松本氏は成果に胸を張る。まさに社員にとって“働きやすい職場”そして“働き甲斐のある職場”が実現できるようになったというのだ。

「従来は“詰め込み型”の組織運営になりがちでしたが、トライ・アンド・エラーも厭わない組織運営に変わりました。何より嬉しい変化は、人の美点に目が行くようになったことです。短所を追及するより、長所をさらに伸ばそうという雰囲気です。人のいいところを見て自分も良くなろうとする相乗効果もありますね」
また、経営理念の導入時の懸案事項であった古手の社員の抵抗感も薄れ、「照れを見せながらもイベントに参加してくれるようになっている」という。しかし、松本氏は決して満足はしていない。

「私の考え方、感じ方とは違う受け止め方をしている社員も存在しています。組織風土に“完成形”はありません。これからも社員と一緒になってよりよい組織風土を追求していきます」
今後の課題は、自社だけでなく業界全体を変えていくこと。「窓を通じて社会に貢献する社会性の高いビジネス」であることを、業界全体が自覚し、社会に発信・評価される日を目指している。

 

 

会社名
マテックス株式会社
所在地
東京都豊島区上池袋2-14-11
資本金
1億4,115.5万円
従業員数
約250名(2016年4月1日現在)
事業内容
建築用板ガラス・住宅サッシ・ビル用サッシ・鏡・エクステリア・住宅設備機器・店舗装飾資材・樹脂建材等の販売および設計施工など
ウェブサイト
http://www.matex-glass.co.jp