「第6回キッズデザイン賞」に輝く
“子どもたちが自ら創造する場”としての園舎

駅前の「ハッピーロード商店街」で名高い東武東上線・大山駅から徒歩10分。静かな住宅地に「さいわい保育園」はある。2012年4月に認可を得てのスタートに合わせて新築となった園舎はまだ真新しく、モダンなデザインが目を引く。スタートの年に「第6回キッズデザイン賞(子供の未来デザイン クリエイティブ部門)」を受賞するという栄誉に輝いた。この賞は、「子どもが安全に暮らす」「子どもが感性や創造性豊かに育つ」「子どもを産み育てやすい社会をつくる」ための製品・空間・サービスで優れたものを選び、広く社会へ伝えることを目的としている。「子どもの発育段階に合わせた自由な遊びができる空間を、保育室以外のエントランスホールや廊下、バルコニーに設けることで子どもたちが自ら創造する場となることを試みた。子どもたちの想像力をかきたて、自由な遊びや学びができるように空間はつくり込み過ぎず、余白を残した仕上げとした」という設計方針に対し、「過度な装飾を排してきれいにまとまっており、洗練された空間になっている。園内の随所に子どもが自らの発想で遊び場として活用できそうな空間を配置した点も良い」と評価された。

園児が茶道や華道を体験できる畳敷の和室も

例えば、2階と3階のバルコニー。ネットでできた遊具で繋いで、ハンモックのように寝転がったり、飛んだり跳ねたり、昇ったり降りたりして遊べるようにしている。遊び方は自分たちで好きなように工夫することで、遊びながら創造性や体力が養われるのだ。
また、玄関を入った正面には、黒板でできた壁面がある。カラフルなチョークでお絵かきをしたり、マグネットやカラフルギアで造形をして遊べる。もちろん、保育士と保護者の情報交換のために掲示板としても機能している。

そして、廊下の片隅には“秘密基地”が。山型の天井の小さな部屋の内部には本棚があり、絵本が置かれている。子どものころに秘密基地で遊んだことのある大人は、そこで仲間意識や友だちへの思いやりが育まれた記憶がある人も少なくないだろう。そんな機能を園内に設けた形だ。
さらに目を見張る施設がある。畳敷の和室だ。茶道のための「炉」が切られており、ここでは園児に茶道や華道を体験させている。
外部にもオープンな姿勢を取り、ブログをほぼ毎日のペースで発信。海外からを含め来客も多いという。そんな同園は、地域で随一の人気を誇っている。

 

理念は“For The Community
~地域の皆様のために私たちができること~”

同園は2012年まで、板橋区立の保育園として都営住宅の1階で運営されていた。その都営住宅が老朽化し建て直されることになるとともに、同区立保育園としての第1号の民営化が決定。園舎の設計を含めて、事業者を募るプロポーザルが行われた。これに応募したのが、社会福祉法人永寿荘(さいたま市西区、永嶋美喜雄理事長)である。同法人は4カ所の特別養護老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、さいわい保育園を含めて4カ所の保育園・幼稚園を運営。“For The Community ~地域の皆様のために私たちができること~”を理念に掲げ、地域と一体化した施設運営を信条としている。
「“For The Community”という言葉は随所に露出して強調しているので、職員の間には十分浸透しています」と大久保氏。
プロポーザルへの応募に際し、同法人は園舎デザインを(株)日比野設計に依頼。幼稚園、保育園で機能的かつ美しい建物を創り続け、数々の実績とコンクール等で入賞を重ねている建築設計事務所だ。そして、「『DREAM』~ゆめの創造~」をテーマに、“運動不足”“コミュニティ不足”“自由な発想不足”という都市型保育園の課題を解決する機能性を盛り込んだ園舎を設計。同法人が運営する既存の保育園・幼稚園の運営内容も総合評価され、運営を引き継ぐことになった。それだけでなく、「第6回キッズデザイン賞」まで受賞したのは先述のとおり。

ハード面と一体化した“多様な保育プログラム”を展開

同園の認可定員は0歳から5歳まで計90名で、保育士など職員35名で運営されている。その運営(保育)方針は、「思いやり、慈しみ溢れる感謝の心を育てます」「四季を感じ、自然を愛する心を育てます」「人や地域を愛して日本を担う優秀な人材の育成を目指します」「自己を確立し、豊かな感受性と表現力を養います」「食を楽しみ、営む力を育てます」というもの。
「法人全体として、この方針を具現化する“多様な保育プログラム”を展開しています」と大久保氏。先述の園舎設計にもこのコンセプトが盛り込まれ、ハード面と一体化したプログラムが運営されている。その象徴的なものが、和室での茶道・華道教室といえる。導入の狙いを、大久保氏は次のように説明する。
「日本文化を子どもに伝えたいとの思いがあります。また、茶道や華道を嗜む和室には、言葉がなくても口をつぐみ、背筋が伸びるような雰囲気がありますね。幼児のうちからそういったメリハリを経験し、しなやかな心を育みたいと考えています」
また、「運動あそび」は定評のある「安田式遊具」を取り入れ、体育の専任の先生ではなく、担任の保育士が指導。子どもたちが自発的に遊ぶことを促している。
「年長児はほぼ全員、逆上がりができます」と大久保氏は目を細める。

常にコミュニケーションを絶やさず
問題の発生を早めに摘み取る

園全体の雰囲気は良好に保たれているが、それには大久保氏の職員に対するきめ細かいマネジメントが奏功しているようだ。「いつでもどこでも、例えば廊下をすれ違った時でも職員に話しかけて変化を感じ取ろうと心がけている」と大久保氏。職員の大半を女性が占める保育園においては、何か不具合が生じてから対処していては遅いという経験があるからだ。
2012年の民営化スタート時、それまでの区立時代の職員は公務員として一斉に異動、新たに30名ほどの経験者を一挙に採用することとなった。そうした集合体では、なかなか融合が進まないところもあり、「苦労は数えきれないほどした」と大久保氏は打ち明ける。その後、新卒のプロパー職員を採用し続けるとともにマネジメントで徐々に雰囲気を変え、今日では一体感のある良好な風土が形成されている。
大久保氏はコミュニケーションする際は笑顔を絶やさず、相手からも話してもらいやすいようにできるだけ楽しそうに話すことを心がけている。「一度、『園長の顔が怖い』と言われたことがあって」と笑う大久保氏は、コミュニケーションを重視する狙いを次のように話す。
「保育士は気苦労の連続です。また、保育士同士の連携も密に行わなければなりません。万一保育士同士の仲が良くなければ、良からぬ雰囲気が子どもにも伝わりますし、ミスやトラブルの原因になりかねません。ですから、普段から常にコミュニケーションを絶やさないことで問題の発生を早めに察知し、摘み取るようにしています」
そのほか、「陰口はやめよう、言うべきことは言うべき相手に直接言おう。本人に直接言えないなら、その言葉は飲み込もう」「愚痴は言わず、意見を言おう」といった「あたりまえのこと」も常に言い続けているという。

業務効率化・労働時間削減のため壁面装飾物は禁止

また、園全体でできるだけ業務を効率化し、労働時間の適正化にも努めている。たとえば、同園内には幼稚園や保育園でよく見かけるような、カラフルな壁面装飾物がない。子どもが長時間生活する空間には、落ち着かず相応しくないという考えのほか、「どこかのクラスがやると、自分のクラスもやってあげたい、と頑張ってしまう」からだ。
「保育士の仕事は、園児と接する業務と接しない業務に大別できます。後者は、園児が帰宅した後にやることになります。壁面装飾はその最たるもの。保育士は母性に溢れ、真面目で労を惜しまない人がほとんどなので、つい何でも手づくりしてしまいます。それが残業の原因にもなります。そこで当園では、園児に接しない作業を担任保育士から切り離し、無資格含めたパートスタッフに集約させるなど、業務の分掌を大胆に見直しました」
法人としての待遇面では、5年勤続でグアム島、10年勤続ではハワイへの研修旅行を用意しているほか、福利厚生としてリゾートマンションを格安で利用できる制度を導入している。また、有志で富士山への登山を行い、2016年は17名全員が登頂した。

新人にはすぐ上の先輩がつく「チューター制度」を導入

職員の採用においては、できる限りミスマッチを防ぐため、「応募者よりも自分が法人や園の方針などについて話す時間の方が長い」と大久保氏。法人、園のことを十分に理解し、共感した人に入職を検討してほしいからだ。
新卒の新人にはマンツーマンで先輩をつける「チューター制度」を導入して、仕事の進め方の指導や、仕事生活の不安解消に繋げている。チューターには2~3年目の職員が任命される。新人にとっては、すぐ上の先輩という同世代の気軽さと、先輩が経験した生々しさを伝えてもらえるメリットがあるとともに、ホヤホヤの先輩にとっては後輩の気持ちがよくわかるというメリットがある。
同制度においては、新人に3カ月間日報を書かせる。「チューターは思いを込めてビッシリと赤を入れている」と大久保氏。また、新人はテーマを決めた研究をチューターと一緒に行い、全員の前で発表する機会も設けられている。
大久保氏は、信州大学教育学部卒業。小学校教諭免許を取得、その後幼稚園教諭免許、保育士資格も取得した。卒業後は人材派遣会社に就職し7年ほど営業を手掛けた後、顧客であった特注家具メーカーに転じる。同社では7年ほど社長を補佐する形で経営企画などに関わり、2011年、永寿荘に転じた。高校、大学、社会人とアメリカンフットボールを経験した。「たくさんの人間が明確に役割を分担しながらも一つの目標に向かうスポーツです。保育の世界も役割や立場の違う人どうしが複雑に関わり合うので、当時の経験が今になって大変生きています」という。「当時、5歳の息子と富士山に登ったことを契機に、幼児教育への熱が再燃しました」
そんな大久保氏が目指すのは、「地域でダントツの人気No.1の保育園にする」こと。
「当法人の理念である“For The Community”の、最も理想的な在り方を表す保育園になれればいいと思っています」と大久保氏は結んだ。

 

会社名
社会福祉法人永寿荘 さいわい保育園
所在地
東京都板橋区幸町45‐4
従業員数
35名
事業内容
認可保育園の運営事業
ウェブサイト
http://ameblo.jp/saiwai-eiju/