学生チアリーディングの
ベスト3の一角を占める強豪

アメリカンフットボールなどの試合で、軽快な音楽をバックにアクロバティックな応援を繰り広げる、チアリーディング。試合に華やかさを添える、なくてはならない一要素だ。

このチアリーディング、応援だけでなくチアリーディングだけの競技という世界がある。シンクロナイズドスイミング同様、「いかに観客を魅了し、引きつけるか」を競う表現スポーツの一種だ。日本チアリーディング協会のホームページには、「チア・サイドラインといった掛け声やアームモーション、特殊なジャンプ、組体操技術であるパートナースタンツやピラミッドなど、チアリーディング特有の技術を使って演技を構成し、元気良さや楽しさ、美しさを表現」するとある。

一般的な体育会系の種目同様、子どもから中学、高校、大学、社会人まで、各層で大会が開催されている。国内の最高峰とされているのは、同協会が主催する「チアリーディング日本選手権大会」(通称「JAPAN CUP」)および「全日本大学選手権」。それぞれ、トップレベルの「Division1」および、それに準じる「Division2」がある。いずれの大会においても、目下ベスト3の一角を占めている強豪が「帝京大学バッファローズ」だ。

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トップチームに育て上げた
中心人物・岩野華奈監督

バッファローズの創部は2001年。大学のチームとしては、歴史は浅いほう。それでも、2005年頃には早くもトップ10前後の常連となる。その数年後には常に3~5位につけるようになり、2014年には全日本大学選手権で初の総合優勝を遂げた。ちなみに、インターカレッジに出場する大学のチアリーディングチームは、全国に90ほどある。%e4%bd%bf%e7%94%a8%e7%94%bb%e5%83%8f%e5%b2%a9%e9%87%8e%e7%9b%a3%e7%9d%a3

バッファローズをそのようにトップチームに育て上げた中心人物が、岩野華奈監督だ。岩野氏は大学時代にチアリーディングを始め、団体でいかに技を美しく決めるかを競うこのスポーツに魅了される。

「選手としては大学の運動部の応援を少しやった程度ですが、それよりもチアリーディングを指導することに引かれたのです。そして、講習会に通って指導者資格を取得しました」

卒業後、アルバイトで生計を立てながら、高校や大学のチームでコーチを手掛ける。ナショナルチームのコーチも経験した。そして2003年、バッファローズのコーチに就任。

「その後すぐ、たまたま高校で経験した選手が10人ほど一気に入部してくれたのです。上級生が少ない中、4年間じっくり指導することができました。それでチームの基盤ができたように思います」と岩野氏は振り返る。10人の中にしっかりした逸材がいて、1年次からキャプテン格の存在となった。岩野氏は、その学生と二人三脚でチームづくりを進めることができたのだ。大会の成績も上がるようになって、コンスタントにいい選手が入部する好循環もできていった。

2分30秒という決められた時間で
観客にいかに伝え切るか

そして、2007年、岩野氏は監督に就任する。その経緯を次のように語る。

「大学がチアリーディング部を強化する方針を打ち出したのです。当時、帝京大学は女子が少なく、華やかなチアリーディングで目を引こうという戦略があったように聞いています(笑)。ただ、強化対象とするには、競技だけでなく選手の日頃の生活態度から改善する必要性があると、女性コーチの自分に白羽の矢が立ったと思います」

コーチとしてもっぱら技術面を指導していた岩野氏は、「練習姿勢ができていないところがあり、もったいないと感じていた」と打ち明ける。上級生の下級生に対する態度や、練習に臨む態度、コンディションづくりなどに未熟さを感じていた岩野氏は、監督に就任後、徐々に改めさせていった。%e4%bd%bf%e7%94%a8%e7%94%bb%e5%83%8f%e3%83%80%e3%83%b3%e3%82%b9-2

「学生は、チアだけやっていればいいというわけではないと思います。チアだけやっていたいのなら、クラブチームに入るほうがいい。大学は教育機関でもあるので、社会に出た時に役立つような人間教育的なものも、チアリーディング部の活動を通じて身につけさせてあげればいいと感じていました」

チアリーディングという競技には、“人間性”が色濃く反映するという特性もあるようだ。前述のとおり、表現スポーツとして、2分30秒という決められた時間で自分自身の動きを通じ観客にいかに伝え切るかが問われる。

「観客は、単にきれいにできただけでは感動してくれません。『ここに来るまで、みんなでいくつも壁を乗り越えてきたんだな』と思えることで、初めて感動してもらえるんです。そんな演技には、素の自分が出ます。つまり、普段の、ナマの自分がそれだけ素敵な存在でいるかが問われると思っています」

チームのまとまりを阻害することは
即座に全員で共有し、解消

そのためにも、16人の選手によるチームワークをいかに精緻に磨き上げるかが問われる。一人の選手を空中に放り上げ、落ちてきたところをタイミングよくキャッチするといった高度な演技は、全員の呼吸が一致しなければ美しく決まらない。「心の中に、ほかの選手に対するわだかまりなどがあると、途端にズレたり切れ味が落ちる」という。

バッファローズの部員は、2016年10月現在58名。“黒一点”の男子部員1名だけの女子の集団である。世の中ではよく、女性だけの集まりでは派閥が生まれたり、女性同士が“鑑定”し合うなどしてギスギスしがちといわれている。%e4%bd%bf%e7%94%a8%e7%94%bb%e5%83%8f%e3%83%84%e3%83%aa%e3%83%bc

「普段から、派閥なんて組んだ自分が一番損をするといった話はしますし、陰口を言う存在が耳に入れば、お互いに話し合って解決するようにさせます。そして、チームのまとまりを阻害するようなことがあれば、即座に全員で共有し、解消させます」

練習中、失敗するとほかの選手のせいにしたり、気持ちが入っていない、表情が暗いと感じると、必ずその場で練習を止めて注意する。「本人は無意識でやっている場合も多いので、その場で注意されないと何が悪かったのかわからない」からだ。

「とにかく、心につっかえがあると演技はうまくいきません。それを常に外しにかかっているわけです」と岩野氏。もちろん、日頃から選手とコミュニケーションを取り、練習への疑問や本人の意見などの吸収に努めている。「どんなことでも話せる関係を目指している」と言う。

そんな岩野氏が最も厳しく叱るのは、選手が練習で妥協することだ。

「妥協しては練習する意味がありません。そう感じたら、厳しく注意しますね」

監督としては、一歩引き
選手の自主性に任せる

バッファローズの58名の選手は、AからDまでの4チームに分かれる。Division1に出場するトップのAチーム以下、選手のアサインや入れ替えは監督の最重要の仕事の一つ。「5~6名の不動のコアメンバー以外は、試合ごとの演技構成によって最適なメンバーを考え抜いて選ぶ」と岩野氏。その構成は、大会が終了した直後から翌年の大会に向けて考え始めるという。

「優勝できないと悔しくて眠れなくなります。どうすれば優勝できるか、その時からあれこれ考えますね」

優勝に向けて、演技構成を考え抜き、練習を重ねる。「最近は、自分は一歩引いて選手の自主性に任せるようになった」と岩野氏。

「試合のステージに出て演技をするのは、選手たちですから。選手たちが自ら『行くぞ!』と思ってもらえなければ始まりません。私は、どうしようもなくなったら出ていくようにしようと心がけています。これを読んだ選手らは『えーっ!? あれで抑えてるんだ』と言うでしょうが(笑)」

それでも、団体競技であるがゆえに個々の選手のコンディションには差があり、試合に向けてのピーキングなどは一筋縄ではいかない難しさがある。

「どの教科書にも書かれていないようなことが起こります。その日の選手を見てピーキングが早すぎた、なんて思うこともしばしばです。そんな時でもあきらめずに最後のパフォーマンスにベストを尽くしてもらうように声をかけ、いい雰囲気づくりをするだけ。そのために、普段の選手とのコミュニケーションがあったわけですから」

人の練習を見ていると
自分の足りないところが見えてくる

バッファローズが優勝から遠ざかって、2年が経つ。

「優勝チームとの差は、選手の力量以上に私の中の優勝したいという思いの強さの差にあると自覚しています。これを反省材料に、巻き返しを図っていきます」

表現スポーツには、審査員のさじ加減といった不明確な存在もよく指摘されるが、岩野氏は「気にしていない」と一蹴する。

「誰が見ても文句なしという圧倒的なパフォーマンスを決めればいいだけです。審査員をギャフンと言わせてナンボ、と思っていますから(笑)」

リクルーティングも、監督の重要な仕事だ。岩野氏は、時間さえあれば方々の高校のチアリーディングチームの練習を見て回っているという。

「練習を見るのが好きなんです、単純に(笑)。人の練習を見ていると、自分の足りないところとかが見えてきますし。また、それぞれの監督の好みに対応する選手がいると思います。私の場合は、何でもない演技でも美しく映えるような選手ですね。そんな選手を見つけるのも楽しみです。バッファローズのカラーは、力強さとスピード感にあると思っていますが、そんな選手に『帝京大学バッファローズに入りたい』と思ってもらえれば最高ですね」と岩野氏は目を細める。

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会社名
帝京大学チアリーディング部バッファローズ
所在地
東京都八王子市大塚359番地
従業員数
58名
ウェブサイト
cheer.teikyouniv.jp